365体育app6年度卒業式 式辞

  穏やかな日差しに春を感じるこのよき日に、卒業を迎えられる医学部、保健看護学部、助産学専攻科の皆さん、医学研究科修士課程と博士課程、また保健看護学博士前期および後期課程を卒業、修了される皆さん、誠におめでとうございます。心よりお祝いを申し上げます。また、卒業生を今日まで支えてこられたご家族の方々にも、深い敬意を表すると同時に、心よりお慶びを申し上げます。
 また、本日の卒業式を挙行するにあたり、和歌山県知事 岸本周平さま、県議会議長 鈴木大雄さまをはじめとして多くのご来賓の皆様にご臨席を賜り心より御礼を申し上げます。

 今日という日は、皆さんが長年にわたる努力と研鑽を積み重ねてきた成果の証であり、大きな節目となる日です。医学や看護を学ぶ道のりはけっして平坦ではなく、多くの困難や試練に直面したことでしょう。学び続けた講義、挑み続けた厳しい実習、そして患者さんとの出会い。そのすべてが、今の皆さんの礎となっています。
 この日を迎えるにあたり、ご家族の支え、友人との励まし合い、教員や医療現場の指導者たちの助言と導きがあったことにも思いを馳せ、ぜひ感謝の気持ちを忘れないでください。皆さんは、これまでの努力と支え合いの中で成長し、いよいよ社会へと飛び立とうとしています。そこで、医療人として新たな道を歩み始めるにあたり、ぜひ心にとめておいてほしいことがあります。

 まず一つ目は『医療はけっして独りではできない』ということです。
 皆さんは、これから医師?看護師としての道を歩み始めます。しかし、医療はけっして独りでは成し得ません。どれほど優れた医師であっても、どれほど献身的な看護師であっても、一人の力だけでは患者を救うことはできません。医療は、互いに協力し合うチームワークの上に成り立っています。それゆえに、互いを尊重し、連携する姿勢が不可欠となります。そのために、皆さんがこれから出会う同僚やスタッフと、信頼関係を築くことが重要です。知識や技術だけでなく、ともに働く仲間を大切にすることこそが、よい医療を生み出します。
 そして、患者さんの利益をまず第一に考え、柔軟な姿勢を持ちながら、協力し合うことが何よりも大切です。皆さんには、ぜひ「協働する力」を発揮し、チーム医療を支える存在になってほしいと願っています。

 二つ目として『自己犠牲ではなく、持続可能な医療人としての成長を遂げてほしい』と思います。
 医療の道は、けっして平坦ではありません。どんなに尽くしても救えない命があり、自分の無力さを痛感することもあるかもしれません。また、日々の業務に追われる中で、理想と現実のギャップに悩み、自分の存在意義や使命を見失いそうになることもあるでしょう。
 しかし、どうか忘れないでください。医療を支える皆さん自身が心身ともに健やかでなければ、本当によい医療を提供し続けることはできません。患者さんのために尽くすことは尊いことですが、それが自己犠牲の上に成り立つものであってはなりません。自己を大切にし、仲間と支え合いながら、持続可能な形で医療に携わってください。

 そして、三つ目は、技術革新の時代における「人間としての医療」の実践です。
 皆さんが医療の世界に踏み出すこの時代は、AI診断やロボット手術が急速に進歩し、医療のあり方そのものが変わりつつあります。本学附属病院でも、ロボット支援手術など先駆的な取り組みを進めています。しかし、どれほど技術が進化しても、医療の本質は変わりません。
 皆さんにしかできないこと、それは「患者の心に寄り添うこと」です。患者さんの訴えに耳を傾け、真摯に向き合い、相手の立場に立って考えること。AIやロボットは診断や手術テクニックを助けることができても、不安を抱える患者の心を支えることはできません。技術を活用しながらも、人間らしい温かさを忘れないでください。どんなに医療が発展しても、患者さんが求めるのは「信頼できる医療者」であり、「共感し、寄り添ってくれる存在」です。

 四つ目に、『生涯学習の重要性』を強調したいと思います。
 現代の医療は、驚異的なスピードで進歩しています。新しい治療法、革新的な医療機器、AIやデータサイエンスを活用した診断技術の向上など、日々医療は進化し続けています。
 このような時代において、医療人に求められるのは「生涯学び続ける姿勢」です。卒業は学びの終わりではなく、新たな学びの始まりに過ぎません。医療の知識を常に更新し、新たな技術を積極的に取り入れながら、時代の変化に適応していくことが、医療の質を向上させる鍵となります。
 同時に、「知識」だけでなく「知恵」を磨くことも重要です。医学書に載っていない患者さんの声や現場の経験から得ることができる学び、先輩や同僚との議論から生まれる洞察。それらを大切にし、日々の診療や看護に活かしていってください。生涯にわたる学びの姿勢が、皆さんの成長を支え、よりよい医療の提供へとつながるはずです。
 皆さんの前には、多くの挑戦が待ち受けています。しかし、その挑戦の先には、人々の健康と命を守るという、計り知れない喜びがあります。どうか、誇りと責任を胸に、患者一人ひとりと向き合い続けてください。
 また、皆さんの前には、無限の可能性も広がっています。これからの医療の未来を担うのは、皆さん一人ひとりです。時には困難な状況に直面し、迷いや不安を感じることもあるでしょう。しかし、そうした壁にぶつかったときこそ、皆さんの「志」と「情熱」が試される時です。
 本学の卒業生として、誇りを持ち、常に向上心を持って歩み続けてください。皆さんの今後の活躍を、心から楽しみにしています。

 最後に、皆さんの人生は、医療だけで成り立っているわけではありません。家族や友人、趣味や夢、そして自分自身の幸福も、人生を豊かにする大切な要素です。医療の道を歩みながらも、自分自身の人生を大切にし、医療者としても、一人の人間としても、充実した日々を送ることができるよう願っています。
 本日ここに、皆さんの新たな門出を心から祝福し、未来に大きな期待を込めて、私の式辞といたします。皆さんの未来に幸多きことを願っています。

 

365体育app7年3月25日
和歌山県立医科大学
学長 中尾 直之

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